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若手人材確保に有効な「奨学金返還支援制度」のご紹介~“人への投資”が企業と地域を支える~

「奨学金型囲い込み」という言葉をご存じでしょうか。企業が従業員の奨学金について返済支援や給付金を出すことで、学生や若手人材の長期定着を目指すことを指します。

少子高齢化や都市部への人材流出により地方で労働人口の減少が進む今、若手人材の獲得と定着は喫緊の課題となりました。そのような中、企業の「人への投資」は人材の獲得において益々必要とされるポイントとなっています。

そこで福利厚生の一環として、新卒や若手社員を中心に企業が奨学金の返済負担を支援する制度を導入することで、定着率向上や採用競争力を高める可能性があります。

今回は企業の「奨学金返済支援制度」について詳細をご紹介していきます。

「企業等の奨学金返還支援制度」とそのメリット

企業が従業員の奨学金返済を金銭的に支援する制度として、ここでは代表的な奨学金機関である日本学生支援機構(JASSO)の制度についてご説明します。

支援の方法は2パターンあり、手当等で従業員に支給する「手当等支給型」と、奨学金貸与団体に企業が直接送金する「代理返還型」です。いずれのパターンでも制度を導入することで、企業等のイメージアップや福利厚生の充実が図られ、人材確保・定着につながります。

また、メリットはそれだけではありません。代理返還型制度を導入した場合、返還額が経費として認められれば、企業等はその返還額を損金に算入し、法人税の課税対象所得を軽減できる可能性があります。また、代理返還による返還金は原則として報酬に含めないため、社会保険料を減らせる可能性もあります(独立行政法人 日本学生支援機構HPより)。

大学生の半数が奨学金を利用 返済負担が生活に影響も

ではどれほどの学生が奨学金を受給しているのでしょうか。

日本学生支援機構が実施する「令和4年度学生生活調査」によると、大学学部昼間部に在籍する学生のうち、55.0%が奨学金を受給しているとのデータがあります。これは、およそ二人に一人の割合で奨学金を利用している計算です。

さらに、労働者福祉中央協議会実施「奨学金や教育費負担に関するアンケート」によると、奨学金の平均借入総額は324.3万円、平均返済額は月16,880円とされています。

新卒の月給を20万円とすると、社会保険料等が控除され手取りは約17万円程度。そこからさらに奨学金を返済すると手元に残るのはおよそ15万円。この状況では、結婚、子育てなど将来のライフプランの見通しが立てにくくなるのではないでしょうか。

このように、多くの学生が奨学金の返済義務を負い、経済的な不安を抱えながら社会へ出ているという構造が見て取れます。

奨学金返還支援制度の効果 企業と自治体の取り組み事例

奨学金返還支援制度は、医療・介護業界、また建設業界など 、人手不足の業界で導入されるケースが増えています。日本学生支援機構(JASSO)によると、実際にこの制度を利用している企業や社員の声として、「制度利用中の社員の離職率が非常に低くなった」「モチベーション向上につながっている」といった声が寄せられています。

また、地方自治体で独自に、奨学金返済支援制度を活用する企業に対して補助を行う取り組みも広がりつつあります。徳島県と同様に地方圏に位置する熊本県のケースを見てみましょう。熊本県では企業と県とが2分の1ずつを負担し、就職した若者の奨学金返還等を支援する制度を実施しています。こちらでも実際に導入した企業では、応募者の増加や離職率の低下といった効果が表れているといいます。

このように、企業が社員の奨学金返還を支援することは、「応募者増加」「入社決定の要因」「離職率の低下」といったかたちで、人材確保と定着に寄与していることがわかりました。

導入までのステップと徳島県独自の補助金事業

奨学金返済支援制度を導入するステップとしては、まず支援金額や支援期間、対象従業員の選定基準といった社内制度の設計をしたうえで、日本学生支援機構(JASSO)等の奨学金貸与団体への申請をすることが必要となってきます。

導入後の運用としては、運用ルールの明確化と社内周知、採用活動の際には本制度を導入していることをHPやパンフレットで明示することが重要です。

こういった制度運用の準備に関して、徳島県では令和7年5月より、「企業等の奨学金返還支援制度」を新たに導入を支援する企業に対し補助金事業を開始しました。県内の中小企業等が同制度の導入に要する経費の一部を補助するものです。例えば、運用ルール明確化のために就業規則作成・変更を社会保険労務士へ依頼したとすると、その報酬が補助対象となります。その他にも制度導入をPRするための自社HP作成・改修費用や、求人広告費などに対し最大50万円まで補助金を受けることができます。導入を検討している企業にとっては後押しとなる制度ではないでしょうか。

このように、企業が従業員の奨学金返済を支援する施策は徳島県としても注目している様子が見て取れます。

まとめ

若手人材の確保が課題となる中、奨学金返還支援制度は地方企業にとって有効な人材定着策のひとつとして注目されていることがわかりました。徳島県としても、制度導入に必要な経費を補助する支援策を実施し、企業の取り組みを後押ししています。

制度導入のメリットとして、企業のイメージアップや法人税・社会保険料軽減を先述しましたが、それだけにとどまらず、若者の生活を支えることで地域に定着を促し、ひいては地方に賑わいをもたらす社会的な効果も期待されるのではないでしょうか。

これからの地域経済を支える若手人材の育成・定着の方法のひとつとして、ぜひこの機会に奨学金返還支援制度の導入をご検討ください。

制度についての詳細については、下記の資料をご参照ください。

独立行政法人 日本学生支援機構 代理返還案内リーフレット
https://www.jasso.go.jp/shogakukin/kigyoshien/__icsFiles/afieldfile/2025/03/31/dairihenkanchirashi_2.pdf

独立行政法人 日本学生支援機構
https://dairihenkan.jasso.go.jp

徳島県 「企業等の奨学金返還支援制度導入促進費補助金」の募集開始について
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/sangyo/shushokushien/7304387

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