「人手不足の背景を理解し、新たな人事戦略を立案する第一歩を」と銘打ってコラムの連載をスタートしました。
第一章では、日本の人口構成比や求人倍率、各社の採用戦略を通し、人材採用難易度が非常に高くなっている現状の全体感をお伝えしました。
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第二章では、働く人の意識の変化をお伝えしました。
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終身雇用制度が崩壊し成果主義が導入される中、過重労働が常態化していましたが、働き方改革によって、労働者は健全な労働環境が職場に求めるようになりました。女性の社会進出が進み、未婚の女性はもちろん、出産後も働き続ける女性が増え、共働き世帯が一般的になりました。そのため、女性だけでなく男性も仕事だけでなくプライベートの時間を得ることを重視するようになりました。
人材が働き方に対して意識が変わっていく一方、まだまだ意識の変わらない企業もあります。
ビッグモーター事件では従業員への過度なハラスメント行為や不当解雇の恐怖政治から、保険金水増し請求や植樹帯に除草剤散布を行う器物損壊罪などの違法行為が発覚しました。ビッグモーターのような会社が業界最大手であり、従業員を6000人も抱える企業であることに驚きを隠せませんし、その働き方を受容してしまう人材もまだまだ存在することが浮き彫りになりました。
一方で、2023年の夏の甲子園を制覇した慶應義塾高校は、髪型自由、長時間練習なし、選手自身が主体性を活かすなど、新しい時代の働き方にも通じる組織運営で結果を出しました。今の時代でも、野球は長時間練習、厳しい練習、監督や先輩・後輩の過度な上下関係などがあったとしても否定されるようなスポーツではないのかもしれませんが、そんな野球でさえも自由でフラットで、効率的な練習で結果を出せることが証明され、新しい時代に突入していることを感じることができるニュースとなりました。
ビッグモーター事件と慶應義塾高校の甲子園優勝が同年2023年にあるように、現在は、昭和的価値観と令和的価値観が混然と同居する時代なのだと思います。高齢化社会が進む日本では、昭和的価値観が人口比率の中ではボリュームゾーンとなり多数派になります。一方で、若手人材を採用するにはその多数派ではなく若者の意見を取り入れる必要があり、そのバランスを取る難しさもあるのだろうと感じます。
さて、そんな現代で第三章ではこの人手不足の現代で、どうすれば人材採用に成功するのか、どのような人事戦略を立案していけばいいのか、という最終の方法論のご提案ができればと思います。
とはいえ、時代の変化が激しく、まだまだ見えぬ未来もあり、今回の第三章がゴールにはならないと思っています。今後も新たな情報をお出しし、徳島県内企業の採用力向上に少しばかりの力添えができればと思っております。
目次
∟激戦の新卒・若手採用。自社に若手を採用できる土壌があるのか。
∟採用ターゲットを変える。自社での採用可能人材を理解する
∟主に見られる労働条件は「休日」「給与」。
∟正社員以外も強化。BPO・副業の活用を。
激戦の新卒・第二新卒。若手を採用できる土壌があるか
さて、繰り返しになりますが、若年人口がますます減る中、新卒採用や若手人材の採用はまさに激戦状態となっています。昭和的価値観の職場であれば、ますます若い人材を採用することが難しくなっています。特に、若者と経営者層・幹部層の価値観があまりにも大きいことがミスマッチの大きな要因に繋がっていると感じます。
チェックリストを作ったので、自社がいずれの価値観に合致するのかをご確認いただければと思います。
●令和的な職場
□有給休暇が当たり前に取得でき、残業は少なめ。
□仕事が終わればすぐに帰ってもよい雰囲気がある
□年間休日が120日以上ある
□女性の産育休取得後の復帰や男性育休取得が当たり前になっている。
□リモートワークやフレックスタイム制や時短勤務が導入されている。副業を許可している。
□フラットな職場で上下の垣根なく意見が言い合える。
□女性が職場に4分の1以上在籍する、女性の管理職が在籍している。
□20代・30代の社員が在籍し、責任ある仕事をしている。
□システム化・DX化が推進され合理的な仕事の進め方ができる。
□社内規則が見える化され、自由度が高い。
□成長産業もしくは成長企業であり、成長曲線を描いている。
●昭和的な職場
□有給休暇を取得できない。もしくは理由や取得日数によって却下される。
□残業時間が月40時間以上あり、残業が評価される、残業ありきの職場になっている。
□年間休日が100日以下。休日出勤が多い。
□女性の産休後の復帰率が低い。男性育休は取得できない。取得できても短期間となる。
□勤務時間や休日に柔軟性がなく、子育てと仕事の両立が難しい。
□掃除、朝礼、研修、イベント、長時間の会議など過度な拘束や時間外の会社行事が多い。
□現場に権限がなく、決済を取るのに時間がかかり、決定が遅い。
□女性は補助的な業務が中心。女性のみの役割(掃除・お茶出し)などがある。
□平均年齢が40代後半以上。若手人材の採用が難しい。
□OA機器・施設・設備が老朽化している。システム化が進んでいない。
□時間外労働の支払いに不明瞭な点があり、労働基準法よりも社内ルールが重視される。
自社にどちらの方にチェックが多かったでしょうか。令和的価値観にチェックが多い企業は、令和的な価値観に移行されているため、新卒や若手人材を採用する土壌ができているということだと思います。
その中でも、採用がうまくいかない、という場合は選考方法の見直しをお勧めします。自社が「人材を選んでいる」という姿勢が強ければ、「人材に選ばれている」という視点を持つ選考に変更することをご検討いただくとよいでしょう。
採用ターゲットを変える。自社での採用可能人材を理解する
まだ昭和的価値観の色合いが強い企業で、文化・風土・制度を見直すことが難しいとお感じになる企業は、どうすればよいでしょうか。
ご提案したいことの1つは、求める人材像の年齢の上限を+5~15歳引き上げることです。
採用においては、「5年後、10年後を見据えて」「次世代に向けて若返りを図りたい」ということで、20代~30代前半の人材採用を目指すケースが多いようです。もちろん大切ですし、そうできれば一番良いと思います。しかし、新卒・若手人材が極端に採用しにくい中で、若手を受け入れる土壌ができていない場合は、その採用は相当困難になるでしょうし、採用をしても離職に繋がってしまう可能性があります。
人口構成比を見ていただいても若年層が年々減少し、徳島県の平均年齢が49歳という中では、20代~30代の若手ゾーンの採用は非常に難しくなっています。
採用においては長期的視点で採用を行うことが多いと思いますが、現状においては、目先の人手不足が大きな問題になっていることが多いと感じます。また、自社の平均年齢よりマイナス20歳になると価値観のミスマッチが生まれ、離職にもつながりやすくなってしまいます。
「35歳転職限界説」※と言われていましたが、それは今は昔。当社での実績としても、40代、50代そして60代の方もご採用が決定するケースが相当数増えてきています。今後はより人材が採用しにくくなる中で、数年後以内に40代以上の採用も難易度が高まると予測しています。もし今、年齢で足切りをしているとするならば、将来的に「あの時に彼・彼女を採用していればよかった」と後悔する可能性が高いと思います。
※転職の限界値が35歳で区切られ、その年齢を超えると転職が一気に難しくなるという説
そして、次に、履歴書・職務経歴書の前職や転職回数にとらわれ過ぎないことです。
「40代で会社を中途半端に辞めるなんて信用ができない」
「何度も、転職するなんて継続力がない」
「前職が派遣やアルバイトではちょっと・・」
とおっしゃられることが良くあります。
しかし、中途採用の人材を採用すると決めた以上、転職回数に制限をかけたり、前職がアルバイトや派遣だからといって、書類選考で不採用とするのは非常にもったいないと思います。
就職氷河期時代の方は正社員での雇用自体も難しく派遣会社にしか所属できなかったという方は多くいます。今までご登録いただいた方でも、派遣社員の方でも超大手企業の技術開発を担っていたりなど、高い技術や専門性、仕事への責任感を持っています。
また、この数年では女性の就職率も随分改善されましたが、10数年以上前は、女性の就職自体もまだまだ厳しく、また家庭と両立できる制度も少なかったため、高い能力を持っていても、希望の就職先に就くこと、仕事を続けることが難しい状況にいたため、必然的に転職回数は多くなってしまいます。
転職回数や前職の雇用形態など、離職を恐れて敬遠される企業もあるのですが、その人自身が持つスキルに加えて、面談を通して人柄やモチベーション、そして開発可能な能力があるかどうか、などをしっかりと確認したうえで、採用を検討しても良いのではないかと思います。
「まっさらな新卒に業務を覚えてもらう方が早い。年齢を重ねて他社の経験が長くなると、新しいことを覚えられないし、自分の考えを変えられないから会社の社風に合いにくい」ということもよく聞きます。
確かに、新卒で似た価値観の方を集め、会社で教育・研修を行うことで、同質的な人材の育成を行うことが日本流だったと思います。
しかし、様々な価値観、多様な人材がいることで新しい取り組みや制度が生まれるため、今後は多様性が重要になるといわれています。また、若手人口が減少する中、同一的な価値観の人材を集めることも、情報があふれる現代で同一的な価値観に育成することも難しいのではないかと思います。
2023年に発表された、厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(案)」においても、現在の人口構成比を考えると、豊富な労働力供給を前提とした雇用管理・労務管理に転換を迫るとされています。
少し時期が過ぎれば、また人材採用がしやすくなるというレベルの人手不足ではないため、企業の組織構造自体も改めて考える時期が迫られていると感じます。それは、人材紹介会社の私たちも同じです。
そのため、まずはこの5年で人手不足を解消するために、今まで採用しなかった人材をもう一度フォーカスし、人手を確保する。業務の割り振りを見直し、どの人材でもできるレベルに落とし込む。システム化やDX化の導入で業務効率を着実に進める。など、今までの人材レベルでの採用のみで考えるのではなく、応募いただく人材レベルに合わせていく、会社のやり方自体を再考するということが大切だと思います。
特に採用が非常に困難という場合は、今まで採用してきた人材像を一度取り払うこと、会社自体のやり方を考え直すということをお勧めしたいと思います。
そのうえで、今後の組織の在り方や体制づくり、そして若手人材に選ばれる会社になるために、令和的働き方を徐々に導入していくことが大切なのではないかと思います。
主に見られる労働条件は「給与」「休日」
人材が採用しにくいという中で、とりわけ「全く採用ができない。応募が来ない」という場合の多くは、休日と給与に課題があるケースが多いと感じます。
株式会社マイナビが、現在正社員として働き、2022年に転職した20代~50代の男女1,500名を対象に、転職者の傾向や変化を調査した『転職動向調査2023年版』を発表したデータをご紹介します。
2022年の転職理由の1位の理由は、「給与が低かった(12.5%)」となりました。また、入社を決めた理由の1位が、「給与が良い」(15.4%)となりました。物価高の影響もあり、より給与に対する切実さが増し、より良い給与の支払いがある企業への転職が増えているようです。
一方で、2019年に多かった転職理由として、「職場の人間関係が悪かった」「休日や残業時間などの待遇に不満があった」「休日や残業時間などの待遇に不満があった」などについては改善傾向が見られるようです。
弊社へのご相談については、コロナ禍以前までの転職理由の多くは、ハラスメントや過重労働など職場に大きな不満を持ち、このまま続けることは到底難しいと、転職を検討する方が多かったように思いますが、今は現在の職場に不満はあれど、過重労働や激しいハラスメントは減少しているように感じます。
働き方改革の推進もあったかと思いますが、コロナ禍で経済が停滞していること、また社内でコロナ感染などが発生した場合は、否が応でも休まざるを得ないため、過重労働の問題はずいぶん減ったのではないかと思います。
そのため、「過重労働ではない、ハラスメントの少ない職場である」というのは最低ラインとして、「給与が良い」職場への転職を希望する方が増えてきているのではないかと感じます。
そのため、給与の相場感を理解し、「値決めは経営である」という言葉がありますが、給与多寡が採用に影響する現在、値決めと同様レベルにご検討されることが大切だと思います。
令和4年12月31日の民間給与実態統計調査によると、平均給与は458万円(同2.7%増、119千円の増加)、平均給与は男性563万円(同2.5%増、137千円の増加)、女性314万円(同3.9%増、119千円の増加)となっています。
以下の資料では、従事員1人の事業所から従事員5,000人以上の事業所の比較、給与階級別、性別、年齢階層別、勤続年数ごとの調査データがありますので、ぜひ、ご参考にいただき、市場の競争に勝てる給与設定となっているかをご確認いただければと思います。
令和4年分民間給与実態統計調査結果/国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2022/pdf/002.pdf
また、休日においては、令和2年(または平成31(令和元)会計年度)の年間休日総数を1企業平均で見てみると110.5日となりました。平成31(令和元)年は109.9日となっていたことから、微増し、近年は増加傾向にあるようです。
同業他社からの採用をご検討される際は、同業他社との年間休日の比較も重要ですし、異業種からの採用を検討する場合は、同業他社だけでなく全業界の年間休日もご参考にいただければと思います。
※マイナビ転職より引用。https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/caripedia/70/
正社員以外も強化。BPO・副業の活用を。
人材紹介会社としては、もちろん人材の採用を頂けるようにサポートしたいと思いますがこれだけ人手不足であれば、あらゆる手段を考える必要があると思っています。
まずは、正社員人材としてはパート勤務の女性の登用、そして高齢人材の活用は積極的に考えるべきことだと思います。
加えて、副業人材、BPO業務の活用も大切だと思います。
副業人材やBPO業務を活用の経験がありますが、特に良かったのはWebマーケティングの副業人材と、営業のテレアポを行っていただくBPO業務です。
Webマーケティングの人材は都心にはあふれていますが、地方ではほとんどお目にかかれない人材です。若く、優秀で、Webマーケティングをよく理解している方を週10時間程度で勤務いただくと、コストパフォーマンスとしてもとても良いと感じます。
また、テレアポの営業のBPO業務も徳島の企業にはとても合致していると感じます。リストの提案からリストアップ、トークスクリプトの作成、電話でのアポイント設定、ヒアリング内容のフィードバックなど、社内でやろうと思うとかなり大変ですが、BPOで実施いただけます。特に、新規営業は社内の人員がやると精神的な疲弊感があり、離職につながりやすいそうです。既存業務で手一杯の営業社員が新規営業に時間を割くのが難しいという課題があると思いますが、取得済みの新規アポイントに対して訪問するので、社内での負担は限りなく少なくなります。
徳島の企業はルート営業が多く、新規営業に手が回らないこともあると思いますが、そのような課題を解決してくれるサービスです。その他にも、ペーパレスのBPOサービスがあったりなど、社内では対応しきれない業務を外部に依頼することが可能です。
副業やBPOサービスをピックアップしたので、ご参考にいただければと思います。
URL:https://www.pasona.co.jp/clients/service/bpo/
PASONA BPO・アウトソーシングサービス
業務:人事労務業務、営業・センター業務、総務業務
URL:https://www.aidma-hd.jp/
アイドマホールディングス
業務:営業支援、業務支援、経営支援
URL:https://kaikoku.blam.co.jp/
株式会社BLAM カイコク
業務:デジタルマーケティング人材の副業等の斡旋
URL:https://www.lancers.jp/
ランサーズ株式会社 ランサーズ
業務:副業のマッチングサイト IT、Web、制作、営業、企画etc
BPO業務についても、副業についても重要なことは社内でその業務をある程度理解し、責任者として担当し、コントロールできる人材がいることだと思います。BPO業務のご担当の方がおっしゃっていたのですが、経営者は面白いと思って依頼しても、現場では目の前の業務に手一杯で、対応しきれないということがあるとおっしゃっていました。
手間暇がかかる業務、専門性が高い業務ができる方を外部に任せるには社内でのマネジメント人材の採用が必要だと思います。今後ますます業務が高度化、専門家する中で、高度で専門的な外部のプロフェッショナルな人材やアウトソーシング人材をつなぐ、柔軟さやマネジメントができる正社員人材の採用・育成がさらに重要になってくると思います。
正社員だけが重要なのではなく、正社員を核とした最適な組織作りを目指すことで、この人手不足の時代を共に乗り越えていくことができればと思っています。