前回コラムでは、日本の人口構成比や求人倍率、各社の採用戦略を通し、人材が採用しにくくなっている状況の全体感をお伝えしました。
今回のコラムでは働く人の意識の変化について考察をしたいと思います。人材の獲得が難しくなっていること中に、働く人の意識の変化をとらえきれていないことも大きな課題です。
社会の変遷と雇用環境が変化に合わせて、労働者の意識も変化しています。 「最近の若者は給与よりも休日が欲しいことは知っている」と言う方も多いのですが、その背景についてより詳しく紐解きたいと思います。
新卒一括採用での終身雇用制度の時代
戦後の高度経済成長を遂げ、日本社会の雇用モデルである終身雇用制度が構築されました。新卒一括採用から定年退職まで同じ組織で働くのが一般的でした。お互いに心理的な安全が保障され、労使ともに良好な関係が築かれていた時代でした。多額の退職金など、一社で勤め上げるメリットを大きく感じる雇用モデルとなりました。
バブル期では、求人倍率も高まり人材採用にも多額のコストが投じられていました。交通費は全額支給、会社説明会に行くだけで採用された、高額な自社商品のプレゼント、内定承諾をするとハワイ旅行、他の会社の選考を受けさせないためにホテルで過ごさせるなどなど、たくさんのバブル期の採用のエピソードがあります。
しかし、バブル経済がはじけた後、長きに渡り就職氷河期時代に突入。求人倍率が一気に低下し、正社員での就職が難しくなりまた。 就職氷河期時代は、企業が圧倒的優位に採用活動を行う時期が続きした。「圧迫面接」もこの時期からスタートしました。労働派遣法の改正により、派遣労働者の採用が増え、正規雇用の枠は争奪戦となっていました。1993年から2005年頃まで長らく続いた就職氷河期を脱出した後も、リーマンショック、東日本大震災と社会不安が続き、企業優位の採用や雇用環境が続きます。
働く人の意識の変化が生まれ始める
働く人の意識が大きく変わり始めたのが、2008年ごろだと感じます。ワタミの新入社員が過重労働によって自殺。そして、2015年に電通の高橋まつりさんの自殺がありました。その中で、2018年に働き方改革がスタートし、労働者の意識が大きく変化しました。
企業が労働者の「やりがい」を悪用し、不当な低賃金、残業代未払い、長時間労働を強いることを「やりがい搾取」と表現されるようになりました。
また、金融機関、メーカーなどの超大手企業が何万人という単位でリストラを行うことが日常化するようになりました。2019年5月では、「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」とのトヨタ自動車 豊田章男の発言も注目されました。
現在でも、そして徳島にも、終身雇用型で安心して働ける企業は多数ありますが、サービス残業や長時間労働、会社に従った転勤などをしたところで、終身雇用が守られない企業も多いという認識が広がるようになりました。その結果、より企業には労働基準を的確に守ることを求める傾向が強まってきました。
人材紹介の業務をする中でも、この頃から労働者の労働基準に対する意識が非常に高まってきたと感じます。 長時間労働、残業代未払い、有給休暇の使用禁止、パワーハラスメントなどに対して強い嫌悪感を持つようになってきたと思います。特に若者は、「この企業はブラックではないですか?口コミを見てきたのですが」とブラック企業かどうかが企業選択の大きく影響するようになっていると感じます。
働く人材の多様化
そして、働く人材の属性も大きく変化しています。
戦後続いた男性は働き、女性が家を守るという形も1990年を起点に逆転が始まりました。
1990年から同数程度となり、2000年以降は共働き世帯が増加傾向に転じています。2020年段階では、1240万世帯が共働き世帯となり、専業主婦世帯が571万世帯と、共働き世帯が倍増しています。横ばいだった女性の就業者数は、平成24(2012)年から令和3(2021)年までの9年間で約340万人増加。この10年程度で、女性の採用が一気に加速しています。
そして、女性が結婚や出産を機に、離職しその後数年後に職場に復帰するグラフをM字カーブと言いますが、令和3年度にはM字カーブは緩やかになり、結婚・出産における離職が減少しました。
そして意外な数字があります。日本全体の人口、生産年齢人口は年々減少していますが、労働力人口は1990年以降、上昇傾向にあり、働き手の総数自体は増えています。女性の就業の増加や、2013年に政府が改定した「高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が義務づけられるなど、高年齢者の雇用も労働力人口の増加の後押しとなっています。
以下はグラフをまとめていますので、詳しい数字を確認したい方はご覧ください。
■男性雇用者と無業の妻からなる世帯と雇用者の共働き世帯
■女性の年齢・年代別の労働力人口
■女性の就業者数の推移
■労働力人口の推移
まとめ
終身雇用制度が崩壊し成果主義が導入される中、過重労働が常態化していましたが、働き方改革によって、労働者から健全な労働環境が職場に求めるようになりました。また、女性の社会進出が進み、未婚の女性はもちろん、出産後も働き続ける女性が増え、共働き世帯が一般的になりました。そのため、女性だけでなく男性も仕事だけでなくプライベートの時間を得ることを重視するようになりました。
その結果、20代~30代の人材にとっては、プライベートの時間を確保することは当たり前であり、家庭と仕事の両立ができる働き方を求めるようになりました。また、同時にこの十数年においては、企業の求人倍率が年々高まり、バブル期と同様の超売り手市場に転じ、人材が企業を選ぶ立場になりました。
そのため、働き方改革が進まない会社や企業や安定した職場であると認識されない企業は、人材に選ばれることが難しくなっているという現状が生まれました。
人材採用に大きなコストを掛けることが難しく、条件を大きく改善することが難しい企業と、求める条件が厳しくなる人材とのミスマッチが広がっているのが、現状となっています。
働く人材の意識の変化についてご理解はいただけましたでしょうか? 次回は、それでは採用状況を改善・好転させるための企業の取るべき戦略を考えてみます。