
前編では、若い女性にとって魅力的な就職先が少ないことで、県外への人口が流出し、雇用の綱引きで負け、東京の一人勝ち状態となっていること。また、女性だけでなく、若年男性も共働きを希望していること。
地域での人口減を少しでも防ぐためには、女性を中心とする若年層が魅力的だと感じる雇用を生み出すことが大変重要であることを説明させていただきました。
それでは、徳島は、企業はどのような戦略を取るべきなのか、講演の内容を引き続きご紹介します。
就職先を選ぶ理由に、テレワーク導入が高く評価される
2023年10月時点で、東京では在勤者の4人に1人以上がテレワークを利用しています。テレワークは、子育てや介護、通院、婚活など様々なライフステージと仕事を両立するための有効な手段になります。
しかし、徳島の状況を見ると10人に1人ほどしか、テレワークを利用しておらず、東京との差が浮き彫りになっています。
東京一極が進む中で、地方ではなく「東京」を就業先に選んだ若者たちが、「結婚・子育てに望ましい制度」として考えている制度としても、テレワークが1位となっています。
1位・・テレワーク(61.2%)
2位・・フレックスタイム制(58.5%)
3位・・週休3日制(34.0%)
4位・・時短勤務(31.3%)
5位・・その他福利厚生(ベビーシッター・家事代行利用補助など)(19.3%)
6位・・時間単位で取得できる年休制度(18.4%)
※東京の18~34歳が選ぶ「結婚・子育てに望ましい制度」
また、一般社団法人中業企業個人情報セキュリティー推進協会の2025就活生の企業選びに関する意識調査も興味深いものがありましたので、ご紹介します。
企業選びにおいて「DX推進の取り組み」を重視する学生は4割以上になります。
そして、DX推進の取り組み状況をどのような観点で確認しているか、という問いに対しては、「テレワークが積極的に採用されている」(27.9%)が最多となっています。
つまり「テレワーク」は、結婚や子育てのライフステージに合わせた制度としての意味合いと、DXがされている進歩的な企業かどうかの判断材料になっているということが考えられます。
人手不足も深刻化する中で、IT化やテレワークを強化する企業は、今後ますます増えていくでしょう。デジタル活用を当たり前とする世代にとって、むしろ「テレワークが導入されていない」ことが採用においてマイナスイメージになる可能性すらあるのだと思います。
製造業だからテレワークが導入できない、ことはない。
私自身、徳島は製造業が多いので、テレワークの利用率が低くなるのは仕方ない、と思っていたのですが、そうではないようです。
業種ごとにテレワーク導入率に差がありますが、製造業のテレワーク導入率は全体の4位に位置し、20%弱の導入率となっているようです。徳島は全業種でみても10%に達していないため、徳島は製造業がメインだから、というのは言い訳になってしまうようです。
業種のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を打破することが大切だと、天野先生はおっしゃります。
確かに、製造業ではテレワークが難しいと思い込んでいると、テレワークを導入する製造業に採用競争で負けてしまう可能性が高まってしまいます。製造業でもいかにテレワークを導入するのか、を真剣に議論する必要がありそうです。また、徳島県での製造業でのテレワーク導入は、徳島県の採用力向上に大きく貢献するのではないでしょうか。
もちろん、ほかの業種でもできない理由を探すのではなく、「どうすればテレワークを導入できるのか」という視点で考えてみることが大切だと感じます。
「女性の仕事」が残る地方から女性が逃げ出していく
また、これは「地方の問題」ということで天野先生からの指摘があったことですが、女性の仕事=観光、飲食、宿泊、医療・福祉という、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が残存することが、地方の問題だということです。
これらの業種は、対面接客が多く、テレワーク利用割合が最も低い業種です。こうした時間や場所の自由度が高い業種を地元の「女性の仕事」と強くイメージしているので、女性から逃げられるのも無理はない、ということです。
私自身、恥ずかしながら接客関連は女性の仕事とイメージしていましたが、結婚を予定する、結婚をした、妊娠や出産をした女性の多くが、対面が必要とする業種で離職していく状況を見てきました。また、若い女性が早い段階で離職することを前提とし、企業が雇用をしているため、給与などの条件が低い傾向もあります。
この問題をどう解決すべきなのか、私なりにも解決方法も提示させていただきます。
また、対面接客が中心の業種の多くが、年間休日が少なく、土日出勤があることがほとんどです。子育てをする女性の多くは、休みやすさを重視し、特に土日休みを取得することを希望します。子育てを経験している方なら理解いただけると思いますが、保育施設や学校が休みの日は子どもと過ごす必要があります。そのため、結婚や出産を機に離職するケースがとても多くなります。
そのため、女性を採用したい企業は、正社員でも土日の休みを全てではなく一部取得できるようにすることをご検討いただくとよいと思います。将来的にも、子育てが落ち着いた方であれば、必ずしも土日休みにこだわりませんので、土日の出勤を増やしてもらう、中途採用などで土日勤務のできる人材を採用するなど、皆が同じような休日の取り方をするのではなく、個別での対応や多様な働き方を社内で作るとよいのではないかと思います。
また、これらの対面接客が多い業種においては、より業務の生産性や付加価値を高める工夫がもっと必要なのではないかと思います。若い女性、給与が低くてもやってもらえる仕事ととらえ、高い給与を提示する予定がなく、生産性の向上などを検討していないケースも多いように感じます。
継続的に働く価値がある給与提示できるよう生産性を向上し、女性の比率が高すぎる職場は男性の比率を高める必要があると思います。
女性が多すぎる職場もまた、男性が多い職場に多様性が生まれないのと同様に、偏りが生まれてしまうこともあり、変化が生まれにくいと感じます。
難しい問題ですが「若い女性にやってもらえばいい」と雇用者側が考えていても、「女性の仕事」を希望する女性が年々減ってきてしまっているという状況への対応を考える必要があるようです。 弊社でも実際、転職希望者にアンケートを取っていますが、同職種での転職を希望しない割合は、接客業経験者が最も高く、接客業経験者は異職種への転職を希望しています。
女性を「サブ人材」「不要」とする企業は人手不足に陥る。
徳島の20代人口は、40代人口の58%しかいない。
「女性の話は、関係ない。そうはいっても、男性の採用が主なのであまり関係ない」と思われる経営者・人事後責任者もまだまだいらっしゃると思います。
しかし、今の日本は、全国の20代をかき集めても、40代の67%しかいない時代に突入しています。
さらに、徳島の20代人口は40代人口の58%と、状況はさらに深刻です。
この貴重な20代人口の半分を占めている女性の生産性を放置して、地域が発展できるはずがありません。
この現状は、日本病といっても過言ではないと、と天野先生は指摘します。
男女の賃金格差が2割を超える国の労働生産性は低い
私も初めて知ったデータになりますが、正社員の男女の賃金格差を見ると、OECD加盟国のなかで、格差が2割を超える国は、日本を含めて6か国ありません。
この上位6か国を見ると、民族紛争が絶えず徴兵制などがある国ばかりが並び、その間に日本がいるのです。天野先生は、いつまで第二次世界大戦後の雇用構造を引きずっているのか、と指摘します。
OECD加盟国の男女賃金格差ランキング
1位 韓国
2位 イスラエル
3位 ラトヴィア
4位 日本
5位 キプロス
6位 エストニア
7位 カナダ
8位 アメリカ
9位 メキシコ
10位 フィンランド
11位 オランダ
12位 英国
13位 スロバキア
さらには、男女の賃金格差が2割を超える国の労働生産性は、他国に比べて低いということもわかっています。
ということは、企業でも男女の賃金格差が大きければ大きいほど、労働生産性が低い可能性が非常に高いということです。経営者・人事責任者の方々は、この機会に改めて給与の賃金差をデータとして分析してみるとよいかもしれません。賃金格差を是正する行動の中で、労働生産性が高まるかもしれません。
どんな企業が選ばれるのか
最も重要なことは「若者採用」と「若者へのPR戦略」であると、天野先生は回答します。制度を一生懸命整えても、PRができなければ若者には届きません。
今の学生にとって、インターネット上の就職情報サイトは常識であり、就職活動の大半がネット上で行われています。HPの採用ページを充実させ、募集要項やエントリーページだけでなく、CSRなど会社の公益性に関する情報も発信することが重要になります。
また、WEB面接の体制がなければ採用競争に勝てない時代となりました。今までの採用競争企業は、同じエリア内の企業がほとんどだったと思いますが、地元就職を希望する学生や地方でいる学生も、首都圏の企業と地元企業の選考を同時に進めることが当たり前になりました。
コロナ禍以降、首都圏の企業から先に内定をもらい対面面接しかしない地元企業は辞退される、といった傾向も出てきました。
採用競争力を高めるための「リモートワーク」、また選考のための「WEB面接」そして、人材を集客するための「WEB広報戦略」と、ITの力を活用できる社内体制づくりの重要性が企業には問われています。 パネルディスカッションに登壇していた、電脳交通 CEO代表取締役社長の近藤氏がこのように言っていました
今までは、感覚で入社先企業を決めていた人材も、今はSNSやWEB上のサービスを活用し、同世代の能力や経験、年収相場と比較して、自分の市場価値を把握できる時代になってきているため、「徳島だから」「地方だから」という固定概念は、若者の間ではほぼなくなっている印象。
採用が成功すれば、組織とともに業績が伸びるとわかっていても、実際はなかなか難しくなっていることを実感している。
自身も、当初はできるだけお金をかけずに採用したいと考えていたが、今は経営者自らが採用の動向や戦略を学び、人材にしっかり投資する時代に入ったのだと、改めて実感したとおっしゃっていました。
企業は、人材が最も重要と当然理解されています。
その中で、人材採用戦略をどう立案するのか、経営手腕が問われるようになっていると感じます。
最後に
進学・就職を期に、地方(徳島)から人が出ていき、徳島に戻ってこない。
そんな負のループを終わらせるためには、地元で親の姿を見て、子どもたちが男女問わず「この会社で働きたい」「継ぎたい」と思える環境づくりが不可欠です。
そのためには、企業自体が「若者の価値観に基づいて」魅力的であることが求められます。
最後に「狂気とは即ち、同じことを繰り返し行い、違う結果を期待することである」という金言をいただきました。
企業が人材を確保するためには、変化が必要です。そして、その企業のよい変化が若者の雇用を生み出し、地方での人材獲得につながっていくのです。
私たちも徳島の人材会社である役割・使命感をもって、徳島の企業の皆様と採用競争力の向上を目指してまいりたいと思います。