2025年5月1日、労務行政研究所が東証プライム企業に実施した「2025年度 新入社員の初任給調査」の速報集計を発表しました。
2025年4月入社者の初任給を調査したもので、1586社中回答があった197社分を集計。初任給を「全学歴引き上げ」た企業は 83.2%となり、前年度(24 年度速報 集計時)より3.6ポイント低下したものの2年連続で8 割を超えました。
近年、新卒採用を取り巻く環境は大きく変化しています。
東証プライム上場企業をはじめとした全国的な初任給の引上げが続くなかで、地域企業である徳島でも同様に賃上げの必要性に迫られています。連日インフレによる物価高が報道され、大幅な賃上げの機運が高まっており、企業側も学生側も、これまで以上に”給与の比較”が意識される時代になりました。マイナビの調査によると、企業選びのポイントに「給料が良い」と答える学生は4年連続で増加しているとのことです(マイナビ「2026年卒大学生就職意識調査」)。
新卒採用を成功させるためには、初任給引き上げが必要なことは理解しつつも、初任給30万円を超える事例など自社の参考になりにくいニュースも多く、本当に知りたい部分の実態がつかみにくく、自社の初任給額を検討する材料になりにくいのではないかと思います。
そこで今、起きている初任給引き上げの真の実態や徳島県内企業の初任給の動向を理解できるよう分析、初任給額を検討するに必要なデータを取りまとめました。
全国大手となる東証プライム上場企業の初任給平均
労務行政研究所の調査による、東証プライム上場企業197社の学歴別の2025年度の初任給水準をご紹介します。
2025年度 新入社員の初任給(東証プライム上場197社回答)
・高校卒で20万6523円(24年度 19万3427円 )
・短大卒で22万1640円(24年度20万5887円 )
・大学卒で25万5115円(24年度23万9078円 )
・大学院修士卒で27万3327円(24年度25万9228円 )
昇給の上昇率はいずれの学歴でも6%を上回り、上昇額の平均は、高卒は約1万5000円、短大は約1万6000円、大卒、大学院修士卒は約1万8000円となりました。
●最多の上昇額分布
初任給の上昇額の分布を見ると、どの学歴でも1万〜1万2000円未満が最多となりました(高卒は1万2000円~1万4千円も同率最多)。
● 初任給の上昇額が1万2000円未満の割合
高卒で27%、短大卒で22%、大卒で21%、大学院修士卒で19%という数字から見ても、学歴が高いほど、初任給の上昇額が大きい割合が高い様子がうかがえます。
●最高上昇額
高卒でなんと13万円、短大卒で11万6000円、大学卒で10万円、大学院卒で10万円と大幅な上昇を行う企業もあるようです。
高卒の求人倍率が高まる中、給与額を大幅に引き上げ、高卒採用を強化する企業の動向も感じます。
かつての“横並びの初任給市場”が崩壊
東証プライム上場企業の初任給平均値の解説をしましたが、平均値だけに囚われると実態がつかめません。現在はかつての「横並び」の初任給ではなくなっていることが大きな特徴です。
2015年代では、上場企業の新卒大学卒初任給は約 20万6,000円〜20万9,000円前後が多く、地方の中堅企業でも18〜20万円台が主流でした。そのため、当時は「大企業と地方中堅」の初任給格差がせいぜい数万円(2〜5万円程度)であり、初任給月給時点では大差はありませんでした。また、「仕事のやりがい」「企業としての魅力」での打ち出しを行い、採用広報に力を入れることで、地方企業もいわゆる学歴の高い人材を獲得する機会がまだ十分にありました。
一方、2022以降、とくに2024年~2025年にかけて大きな構造変化が起きています。初任給が急速に引き上げられるようになる中で、初任給を大幅に引き上げる企業と、微増の引上げはあるもの中央値付近を維持する企業の「二極化」が一気に進みました。特に大手企業や成長企業では25万~30万円台へと大胆に引き上げる動きが相次ぎ、新卒初任給月給が40万円代の企業も誕生しています。
東洋経済によると、1位のサイバーエージェント(広告代理店大手)は、年俸制であるものの大卒総合職の初任給は42万円。2位の日本M&Aセンターは、大卒総合職の初任給は時間調整手当11万7750円も含まれるものの、40万2750円。3位は日本テキサス・インスツルメンツ(電子部品・機器)が月給390,870円。4位がセプテーニ・ホールディングス(広告)、5位は電通(広告)月給355,925円。月給30万円超の企業は59社となり、広告、電子部品・機器メーカー、生保、IT、医薬、鉄道・商社、海運・空運、石油、不動産、建設、証券、テレビなどの業界大手が並びます。
このように、従来20万円前後が主流だった分布が、上位層だけ急激に“せり上がる”形となり、企業ごとの新卒初任給の格差が開くようになりました。そのため、初任給の「平均値」は大きく上がっているにもかかわらず、「中央値」はそこまで伸びていないという“乖離”も発生しています。実際には、一部の高額提示企業が統計を押し上げている一方で、多くの地方企業は21万〜23万円台にとどまり、結果として初任給の格差がこれまでになく顕著に表面化したと言えます。
かつては地方企業と大手企業の初任給格差は2万〜5万円程度にとどまっていましたが、現在では、東証プライム上場企業の初任給が25万5,115円、一部の大手では27〜30万円超となり、地方企業との月給差は4万〜12万円へと拡大しています。
徳島の企業の初任給の平均や給与帯の分布図
2025年と2026年の徳島県内企業における新卒の基本月給を比べると、県内で“初任給の底上げ”が進んでいます。もっとも大きな変化は、月給20万円台以上の割合が増えた点です。特に23万~26万円台の高いレンジは、5%から10%へと倍増しました。一方で、これまで最もボリュームが大きかった16万~18万円台は、32%から22%へと10ポイント減少しています。
つまり、かつて多かった「16万~18万円台の企業」が、2026年には20万円台へ移行している状況です。19万~21万円台の中間層でも、上限側に引き上げる動きが目立ち、給与分布そのものが上のレンジへと押し上げられています。
全国的にも、2025年・2026年と続けて初任給を引き上げる企業が増えており、帝国データバンクの調査でも「初任給を引き上げた企業」が過去最多水準となっています。 徳島県内でも、こうした流れを受けて企業が待遇改善に踏み切りつつあることが、今回のデータから読み取れます。
徳島には、基本月給が12万円代~15万円代の企業が7%あり、別途手当を設けているケースもあるようですが、基本給が15万円代以下の企業の新卒採用はやや困難な状況に陥るかもしれません。
それでは、徳島の企業の初任給についての詳細データを解説させていただきます。
◎対象求人について
・徳島県が本社の企業に限定とし、対象企業数は153社
・求人数は職種ごとにカウントとし、求人件数は292件(徳島県外勤務の求人は除く)
・2026年度の新卒採用のマイナビとリクナビからの調査
・大学卒の初任給に限定
◎給与について
詳細については、手当を除く基本月給で比較。
それでは、2026年度新卒採用における月給について調査データをお伝えします。
●月給の平均
| 平均 | |
| 手当含む月給総額 | 基本月給 |
| 215,163 | 200,191 |
2026年度卒の徳島の、手当を含む月給総額と手当を含まない基本月給の平均を出しています。基本月給は、200,191円。手当を含む月給総額の平均は、215,163円となりました。
2025年度卒の平均は、基本月給192,390円、月給総額205,735円でしたので、それぞれ約8000円(4.05%)、9500円程度(4.58%)上昇しています。東証プライム上場企業の初任給引き上げ額が大卒で約1万8000円、月給が25万5115円(25年度)となりますので(徳島は26年度卒)、徳島でも新卒初任給が引き上げられているものの、大手企業との初任給の格差がより開いている状況となっています。
●基本月給の中央値
徳島県内の基本月給の中央値は「20万600円」となりました。グラフを見ると「20万円台」は全体の26%を占めています。ついで「16万円~18万円」の22%、「22万円」の13%、「19万」「21万」の11%とつづきます。
帝国データバンクによる全国1,519社のアンケート調査によると、2025年度の初任給は「20万~25万円未満」の企業の割合が62.1%で最も多く、次いで「15万~20万円未満」が24.6%、「25万~30万円未満」(11.4%)は2ケタへ上昇したそうです。
徳島では「20万~25万円未満」の企業の割合は58.6%、「25万円以上」の割合は2.8%となるので、全国と比較するとやはり少し低めとなっているようです。


●2025年度との比較
2025年度のデータを見て比較してみましょう。

◎全体として “初任給の上昇”
2026年になると、高い月給帯(20万円以上)が増加しています。
・20万円台(200,000円代)が21% → 26%へ増加
・23〜26万円台が5% → 10%へと倍増
・16〜18万円台は32% → 22%へ減少
企業側が新卒初任給を引き上げている傾向がはっきりと見えてきます。
◎“低い給与レンジ” の割合が縮小
・16〜18万円台:32% → 22%(大きく減少)
特に16〜18万円のゾーン(もっとも多かった層)が減り、より高い層へシフトしていることがわかります。
◎給与分布の高額側への広がりで格差が生まれる
2025年は比較的給与帯が固まっていましたが、2026年は 「20万前半」「23〜26万台」など高額帯が存在感を増しています。
また、徳島県内の給与の平均引き上げ額が8,000円となりましたが、中央値とは一致していません。引上げがない企業や微増の企業が約半数を占めており、2万円以上の積極的な引き上げを行う企業(17.3%)や 5万円以上の高額帯(1.4%)も一定数存在し、徳島県内でも企業との格差が広がりつつあります。
このように、賃上げを積極的に行える企業が増えたため、徳島県内においても「企業間の給与差も広がっている」と捉えることができるでしょう。
●初任給引き上げ額割合
| 引上げなし(0円) | 34.10% |
| 数千円(1〜6,999円) | 13.60% |
| 7,000〜9,999円 (徳島平均8,000円前後) | 6.50% |
| 10,000〜14,999円 | 23.40% |
| 15,000〜19,999円 | 3.70% |
| 20,000〜49,999円 | 17.30% |
| 50,000円以上の高額帯 | 1.40% |
まとめ
2023年以降、大幅な初任給の引上げが行う企業が誕生したことで、月給格差が広がり、かつての横並びの初任給が崩壊しました。都心部の大手企業との地方の一般企業との給与格差は2万〜5万円程度にとどまっていましたが、現在では、地方企業との月給差は4万〜12万円へと拡大しています。また、徳島県内でも給与の格差が広がりを見せています。
初任給月給を高めるため、
・採用競争力を高めるため、新卒においても賞与を月給に振り分け、月給額を高める年俸制を導入する企業も増え、徳島の企業でも年俸制で月給額を高める企業もあります。
・ 数学・統計・コンピュータサイエンス系の優秀層などの採用に絞り、新卒の採用人数を抑制する企業もあります。
・初任給の引上げは行うものの極端な引上げを行わず、将来的な給与額を提示する企業もあります。
初任給月給額並びに給与額が採用競争力に大きな影響を持つようになったことは間違いありません。そのため、全国的な動向、徳島での動向を把握し、平均だけに取らわれることなく、給与において綿密な戦略を立案することが求められるようになったといえるでしょう。
また、新卒の初任給=基本給の企業がほとんどのため、中途採用時の基準値にもなります。中途採用も含めて、ぜひデータを参考にいただければ幸いでございます。
◆参考データ一覧
【参考コラム】徳島県内企業の2025年度新卒初任給の平均額及び全国企業との比較
https://mutsubi-a.jp/for-hr-professionals/syoninkyu_2025_tokushima/
【参考】
労務行政研究所「2025年度 新入社員の初任給調査」
https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000089050.pdf
帝国データバンク「初任給に関する企業の動向アンケート(2025年度)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250214-startingsalary2025
マイナビ「2026年度卒大学生就職意識調査」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250423_95696/
40万超も!「初任給が高い100社」ランキング 人材確保のため新卒の初任給引き上げが相次ぐ
https://toyokeizai.net/articles/-/852447