
先日開かれた徳島地方最低賃金審議会により、2025年改定の徳島県内最低賃金が 1,046円 に決定しました。現行980円から 66円(6.73%)の引き上げ となり、1,000円台に突入します。国の目安額よりプラス3円での決定です。
適用は 2026年1月1日からとなります。例年より遅めの適用ですが、これは「企業の準備期間確保」と「年末の働き控え回避」が理由とされています。徳島の最低賃金額は四国ではトップとなり、全国順位は27位で、2024年度と同じ水準をキープする形となりました。
2024年の「徳島ショック」のその後
2024年には徳島県では過去最大となる84円の最低賃金の引き上げを実施しました。大幅引き上げは全国に衝撃が走り、「徳島ショック」とも呼ばれました。
【参考コラム】[2024年・最低賃金]全国・過去最大の引き上げ額84円の徳島が、ワースト2位を脱却し、全国27位へ。https://mutsubi-a.jp/for-hr-professionals/minimum-wage-2024/
ではその大幅引き上げは、徳島にどのような影響を与えたのでしょうか。
全労連のレポートによると、
①実質賃金は、24 年8月以降9カ月連続で前年同月比プラス。物価上昇を上回る形で推移、
②有効求人倍率は大きな変動なし、
③企業倒産件数は、例年並みで推移し、大幅引き上げによる倒産急増はみられなかった
とのことです。
さらに、上記に加え2025年7月の後藤田知事の定例記者会見では、実質賃金の前年同月比は全国でマイナスが続くなか、徳島はプラスで推移しており、「全国平均を大きく上回る現状」であると述べられました。
徳島県内の賃金は上昇し、また、急激な雇用情勢の悪化や倒産の増加などの大きな混乱は見られなかったことが分かります。
2024年11月適用なので、長期的な影響の審議についてはまだこれからとなるでしょうが、少なくとも短期的な視点ではメリットが大きいように見えます。
徳島は淡路島と橋で陸路がつながっており、兵庫・大阪の都市部と好アクセスという地理的特徴があります。後藤田知事も懸念を示していますが、関西の隣県と賃金の格差が広がれば、それだけ人材の流出につながるリスクとなります。
だからこそ、最低賃金の地域格差を小さくすることは、人材の流出を抑え、採用の糸口と増やすという意義があるのです。
企業が取るべき「管理の緩和」について―「労務管理そのものを見直す」発想
賃上げは企業にとって人件費増加であり、負担感が伴うことも否めません。ただ、賃金は今後も上がり続ける見込みであり、経営課題として体制を再設計すべき段階にきているといえるでしょう。
人件費増への対応策として「価格転嫁の進め方」については以前のコラムでご紹介しました。
【参考コラム】賃上げ時代に求められる経営戦略。価格転嫁に成功し、企業の利益確保の成功事例をご紹介。
https://mutsubi-a.jp/for-hr-professionals/successful-price-increases/
今回は労務管理コストの削減という観点からお伝えしたいと思います。
◎管理コストを下げる「委託化」
従業員の労働時間や給与計算などの労務管理に負担を感じたことはないでしょうか。最低賃金が上がると、特に単価の低い業務では管理コストの負担が大きくなります。 比較的「単価が低い業務」ほど、
・勤怠管理
・残業代計算
・最低賃金の引き上げ対応
といった労務・管理コストが相対的に大きくのしかかります。
結果として「仕事そのものの価値以上に、管理にコストがかかる」状況が生まれているかもしれません。
こういった状況の打開策として、「業務委託化」という手段があります。従来の「時間で雇う」形ではなく、「成果物や作業単位で委託」する仕組みです。 業務を切り出し、仕事単位で外部に委託するのです。業務委託は出社の場合もありますが、基本的にリモートワークなどで対応する場合が多く、仕事の進め方や作業時間を労働者の裁量にゆだねる形となります。
メリットとしては
・勤怠管理や残業代計算といった労務管理の手間を減らせる
・最低賃金引き上げの影響を受けにくい
・必要な時に必要な分だけ依頼できる
といったものが挙げられます。
作業量や成果物に対して報酬を設定する業務委託では、労働時間管理の必要がないので、管理コストの削減につながります。また時給制と異なるので、最低賃金引き上げの影響を受けにくくなります。
もちろん、業務委託は「安く労働力を確保する方法」ではなく、適切な対価で外部と協力関係を築くことを前提に考えることが大切です。
◎業務委託化の具体的イメージ
では実際に、どのような仕事が業務委託として切り出せるのでしょうか。例えば製造業や小売業など、出社前提の働き方しか難しいと捉えられがちな業種でも、業務の全てではなく一部業務として委託化が可能です。
・検査・検品業務の一部
・バックオフィス業務
・販促物の制作
・在庫管理や棚卸補助 など
「生産や販売のコア部分」は社員が担い、「周辺業務や付帯業務」は業務委託で切り出すといったイメージです。うまくいけば管理コストの削減に加え、社員の残業削減にもつながるでしょう。また、プロフェッショナルな委託スタッフを見つけることができれば、品質向上にもつながります。
実際に業務を委託化する際には、次のようなステップを踏むとスムーズです。
▼業務を洗い出す — 社員が行っている作業を書き出し、工数や内容を把握する
▼切り出せる部分を選ぶ — 社内に残すべき仕事と外部に委ねてもよい仕事を区分する
▼成果物や納期を明確にする — 時間ではなく成果で管理できるようにする
▼契約条件を整える — 報酬や納品物の範囲を明確にして合意を取る
企業が仕事を業務委託で切り離す際には、業務の棚卸し・単位ごとに切り分けるという作業が必要不可欠になります。
そもそも、労働基準法は労働時間ベースで規制されているため、時間管理の方が法的に運用しやすく、長きにわたって時間管理での運用をおこなってきたため、企業側には従来の“時間管理”ではなく、“業務の切り出し・業務マネジメント”スキルが求められるようになります。
今後、最賃の引上げが続く中で、時間管理型から業務管理型への移行は、多くの企業にとって大きな経営テーマとなってくると考えられています。
労働力確保や生産性向上、採用力向上にもつながる
業務時間を自分で自由に決められることは、労働者にとってもメリットとなります。
例えば子育てや介護のために働ける時間が限られる人や、副業を探している人にとっては都合がよいでしょう。こうした層を業務委託やリモートワークで活用することで、企業は人手不足を解消しつつ収益性を高めることができます。
また、近年注目を集めているWTC(Work time control )という言葉があります。Work time controlとは、労働者が自分で働き方や休み方について決められる裁量権のことを意味します。勤務時間やスケジュールを自分でコントロールできることは、疲労感と睡眠不足が減少し、仕事に関するポジティブな態度が高まると報告されています(労働安全衛生研究所「勤務時間の裁量権と健康および労働関連指標に関する追跡調査 」より)。
それは、委託者だけでなく正社員においても同様で、労働者ひとりひとりの自立性や裁量が増えることは生産性向上につながります。また、自由度の高い、柔軟な働き方を提示する企業は、労働者にとっても魅力的に環境で、採用向上力にもつながります。
2026年1月~の徳島県の最低月給額
最低賃金が1,046円となった場合の、月収や年収の一覧をご紹介します。
2026年1月に改定される徳島県の最低賃金1,046円をもとに、1日の就労時間を8時間として計算。年間休日別に試算した月給・年収をまとめています。条件等によって異なる場合もあると思いますので、目安としてご活用いただければ幸いです。
2025年度 徳島県の最低月給・年収賃金額の早見表
年間休日 | 最低賃金1,046円目安での月給 | 最低賃金1,046円目安での年収 |
100日の場合 | 18万4,793円 | 221万7,520円 |
105日の場合 | 18万1,307円 | 217万5,680円 |
110日の場合 | 17万7,820円 | 213万3,840円 |
115日の場合 | 17万4,333円 | 209万2,000円 |
120日の場合 | 17万847円 | 205万160円 |
125日の場合 | 16万7,360円 | 200万8,320円 |
まとめ
今回決定された最低賃金は6.73%の引上げとなりました。ただ一方で物価の上昇は続いており、特に食料の値上げ率は7.6%(2025年8月分消費者物価指数より)となっています。そういった状況を踏まえると、労働者にとってはまだ不足感があり、今後も予定通りの賃上げが続くことが想定されます。
企業が成長曲線を描きながら、「労働者にとって安心して働ける徳島」であるためには、人件費増への対応策としては、価格転嫁に加え、「労務管理の見直し」や「業務委託の活用」 といった考え方を紹介してきました。
特に、従来の「出社前提・時間管理型」の雇用の枠組みから、“業務を切り出し、マネジメントする力” へと発想を広げることも一つの手立てとなります。最低賃金の上昇が続く中で、雇用の枠組みそのものを再設計する ――そうした視点を持つことが、これからの企業経営を考える上で参考になるかもしれません。
【参考コラム】
全労災「【レポート】徳島県での最低賃金大幅引き上げの後、景気や賃金、失業率はどうなったのか?」(2025/7/15)https://www.zenroren.gr.jp/news/3735/?utm_source=chatgpt.com
徳島県知事定例記者会見(2025/7/18)
https://www.pref.tokushima.lg.jp/governor/press-record/7306357
労働安全衛生研究所「勤務時間の裁量権と健康および労働関連指標に関する追跡調査 」https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/srr/SRR-No43-3-3.pdf