Column 経営者・人事向けコラム

在宅ワーク普及率5%の徳島で、在宅ワークを始めました。

「在宅ワークの導入は、時代の流れとして検討は必要かもしれない」
と思いながらも、在宅ワークの導入の必要性を感じない、導入するメリットが見つからないという徳島の企業は多いのではないかと思います。厚生労働省が2020年4月に発表した全国調査によると、徳島における在宅ワークの実施率は5%。
全国平均は約27%、東京:約52%、大阪:約26%ですので、徳島での在宅ワークの普及率の低さがうかがえます。

「もう通常の出勤には戻れない」という声が多数あがるほど、従業員の立場からは多くのメリットを感じる在宅ワーク。
一方、企業の立場から考えると、在宅ワークの導入は、メリットよりもデメリットの方が多いのでは?とお感じになっているのではないかと思います。

企業が感じる不安な点としては、全ての人に在宅ワークを導入できなければ従業員への公平性が保てなくなること。
そして、従業員の管理が難しいこと。簡単に言ってしまうと目が行き届かない環境の中で、真面目に働ことができるのか、十分な仕事をやってもらえるのか、ということの不安点も多いのではないかと思います。

また、接客業や製造業など、対面や現場でなくてはできない業態も多くあるでしょうし、在宅ワークで可能と思われる仕事でも社内でしかできない環境もあるかと思います。

とは言え、まだコロナのリスクが残る中、そして、働き方改革推進が求められる中、「自社では在宅ワークは一切導入しません」と言いきることも難しくなってきているのではないかと思います。

しかし、徳島で在宅ワークが浸透していないことは、見方によっては、徳島には在宅ワークを必要としない、素晴らしい環境があるのだとも感じています。公共交通機関利用者が少なく満員電車のリスクがなく、豊かな空間があることから職場環境における三密の危険性が低いことなど、在宅ワークが必要とされなかったこともあるのだと思います。

弊社では、2020年3月1日より1名の社員が在宅ワークを開始しています。弊社での在宅ワークの導入から運用が軌道に乗るまでのやりとりを、詳細にお伝えすることで、在宅ワーク導入についての検討材料にしていただければと思っています。

在宅ワーク導入のきっかけは、夫の転勤による社員からの「退職」申し出

弊社の在宅ワーク導入のきっかけは、ある社員の引越しでした。
配偶者の転勤で県外に行くことが決まり、退職の相談があったのです。彼女は企業訪問を伴う仕事を担当していたため、当初は退職の選択肢しか考えていなかったようでした。ですが、とても優秀な社員で、当社の業務全般を網羅的に理解し、また重要な業務を多く担ってくれていたこともあり、退職の選択だけでなく在宅ワークで働く選択もあることを提示したのです。

社員が離職することで、人が入れ替わること自体はただ悪いことだけではなく、いい側面もあると考えています。ですが、彼女が入社後、どのように会社になじみ、どのように努力して仕事をこなしていったかを近くで感じ、また成長を続ける彼女を見ていました。
社内の誰からも信頼される良い人間関係を築くことは一朝一夕でできることではありません。彼女自身の努力もありましたし、会社との相性もとても良かったのだと思います。
しかし、一生懸命築いた今の職場環境や仕事のスキルを、夫の仕事の都合で手放さなければいけない現実をなんとかしたいとも思いました。一方で、新天地で他の仕事を探した方が、新たな地域になじみやすく、そちらのほうが彼女の将来を考えると、いい選択なのではという迷いもありました。

そのため、「在宅ワークで働き続ける」という結論ありきではなく、彼女の人生が豊かになること、当社としても彼女の在宅ワーク導入が、自社にとってプラスになることを前提とした中で、「在宅ワーク」を選択するかどうかを考える期間も設けました。

真面目な従業員ほど、在宅ワークへの不安を持つ

彼女自身は在宅ワークに対し「重要な業務は担当できないのではないか」「固定された仕事だけでスキルアップにつながらないのではないか」「コミュニケーションが取りにくくなり、評価が下がってしまうのではないか」など、さまざまな不安を抱えていたようです。

真面目で責任感が強い人材ほど、在宅ワークへの不安が大きいのかもしれません。

そのため、私を含め社員が担っている業務を洗い出し、彼女のスキルに見合った仕事をピックアップして、担当業務を組みなおしました。そして、今まで同様、もしくはさらに重要性の高い仕事をお願いすることで、弊社としても彼女の雇用を続けるメリットを生み出しました。
今は顧客訪問などが出来なくても、社内のみで完結する業務はたくさんあるため、彼女に重要な業務を担ってもらうことはそう難しくありませんでした。また、彼女が当社の仕事を網羅的に理解していたこと、経営陣・社員とのあうんの呼吸で仕事ができる信頼関係を築いていたことも業務の割り振りには重要な要素だったと感じます。

それから、彼女自身が不安に思っていることに対し、設備投資をはじめ会社がどのようにサポートをするかなど、ひとつずつ具体的な話をして在宅で働くイメージを膨らませてもらったのです。
そして、何度かのやりとりを重ねたのち、彼女自身が「在宅で働いてみたい」と前向きに心を決めてくれました。

まるでオフィスに一緒にいるかのようなコミュニケーションを

設備においては、会社でいたときと同じようにコミュニケーションが取れ、業務ができることを目標に、彼女の自宅にデスクトップPC、WEBカメラ、プリンタ、業務用の椅子などの設備の導入をしました。
オフィスを彼女の自宅に作るという考えですので、設備投資は会社で行っています。

【社員自宅側】自宅からオフィスのミーティングに参加
【オフィス側】オフィスにまるでいるような環境整備が実現

また、本社側にも在宅ワーク専用のPCを導入し、WEB会議システムで彼女のPCと接続して常にコミュニケーションがとれるような状態を作りました。お互い声をかけたり慣れるまでに少し時間はかかりましたが、彼女自身が不安に感じていたコミュニケーション不足を解消することにつながっているのではと思います。

また、業務に必要なファイルに社外からアクセスできるように、汎用性が高くセキュリティ的にも問題のないクラウドサービスに移籍し整えました。もともとペーパーレス化を推進していたので、ネットワーク上のファイルにアクセスができれば、支障なく業務を進められる状態でした。

在宅ワークを軌道に乗せるまでの詳細やりとり

さらに、実際に在宅ワーク導入に至るまで、どのような経緯があったのか、詳細に記してみたいと思います。
在宅ワーク運用後、彼女にヒアリングをした現場の声を中心にまとめています。在宅ワークのメリットやデメリット、在宅ワーク導入に至るまでの、細かな準備や社員とのやりとりなどがお分かりいただけると思います。

1.勤怠・業務内容の管理 :「在宅勤務で怠けずに、自分を律しながら働けるのだろうか」

彼女が感じていた不安のうち、意外だったのが「在宅勤務で怠けずに、はたらけるのだろうか」ということでした。「ずっと自宅にいるので、お菓子など食べてだらけてしまうのではないか」など心配していたそうです。

弊社では、WEB会議システムを常時オフィスとつなげているので、常に顔が見える状況となり、出勤時と近い形の環境となり、仕事へのスイッチを入れて業務に取り組めているようです。

2.設備面:「会社がすべて準備してくれたので何も不安がなかった」

設備においては、彼女があまり詳しくないこともあり、会社のほうで準備を整えサポートしました。PC、プリンタ、WEBカメラなどハードの準備、ネット接続やサーバー共有などの技術サポートまですべて会社側で手続きをし、フォローしましたので「何も不安がなかった」そうです。

特に忘れていけないのは椅子の重要性。長時間座って仕事をしても疲れないビジネス使用のオフィスチェアも購入しました。大手レシピサイト「クックパッド」では、在宅ワーカー向けに福利厚生で椅子を購入しているほど、仕事をするうえで椅子は重要な備品なのです。

3.コミュニケーション:「本社とちゃんとコミュニケーションをとれるのだろうか」

WEB会議システムで常時声がかけられる状態ではありますが、実際の職場にいるよりもコミュニケーションが取りにくくなったことは事実です。実際に隣にいるような距離感でやりとりをすることは難しく、特に彼女のほうからオフィス側の私に声をかけるタイミングがはかりにくいようです。

そのため、彼女のほうから積極的にオフィスとの心理的な距離を縮める努力をして、円滑に業務が進む方法を模索してくれました。
また、「自分の働きがちゃんと伝わるだろうか」という不安もあったようで、オフィスにいるときほど密にコミュニケーションがとれない分、メールでの報告や確認の頻度を高め、日々の業務進捗もより細かく行ってくれるようになりました。そのおかげで、うまく連携を取りながら業務を進めることができています。

また、新しくよいコミュニケーションも生まれました。TV会議システムの「画面共有機能」を使うことで、双方がPCのデスクトップの資料を見ながら作業をしたり、指示をしたりすることができるようになりました。

新入社員に指導する際などにとても便利で、オフィスでいるときよりも効率的に業務を進めることができることもあります。

4.勤務のしやすさ:「通勤時間がなくなり、生活に少しのゆとりが生まれた」

徳島の朝のラッシュ時間は、やはり渋滞に無駄に時間をとられてしまいます。彼女は徳島市郊外から朝は40~50分ほどかけて通勤していました。そのため、毎朝5時起きで、自宅に帰ってからもワンオペ育児という状況だったそう。しかし、通勤時間が無くなることで、余裕を持って毎日が過ごせるようになったようです。

5.仕事のパフォーマンス:「オフィス勤務時に比べ、導入当初は50% 現在は85%くらい」

在宅ワーク導入当初は、承認や確認の必要な業務など、オフィスとの連携がうまくできず、業務が思うように進まなかったようです。
また、やはり通信の状況によって聞きにくい瞬間がゼロではないので、聞き直したり、前後の脈絡で感じ取ったりすることもあり、若干のストレスも感じていたようです。
ですが、業務報告メールでまとめて確認をとったり、翌日の私の予定を打診するなどの工夫を重ね、日ごとに仕事のペースがあがっていったようです。現在はオフィスにいた時の85%(彼女の謙遜を考慮すると90%以上)のパフォーマンスを発揮してくれているようです。

6. 健康面、精神面:「物理的、心理的に少し距離を感じています」

オフィスで働いているときは、私を含め社内の同僚と雑談に花を咲かせたり、一緒にランチに出かけたりなど、息抜きをする瞬間も大切にしていました。ですが、在宅ワークで一人となり、雑談が減り、新しい発想や気づきが減ったこと、個々の情報が入りづらいことなどにデメリットを感じているようです。

また、オフィスにいる際には、デスクでお菓子を食べたり、少し席を外したりなど気兼ねなくできていたことが、常時顔が映っている状態なので、気になって適度な休憩をとることが難しくなったようです。会わなければ築けないコミュニケーションもあるということに改めて気づかされました。

7.緊急事態宣言への対応:「臨時休校への対応ができた」

彼女が転居したのは、2020年3月1日。まさに、転居したタイミングからの休校要請が発動するという状況に。幼稚園児と小学校1年生の子どもを自宅で見ることになりました。「なぜ、このタイミングに?」という想いはあったようですが、もし、在宅ワークを選ばず、退職してしまっていたら、最悪のタイミングでの転職活動になっていたと思います。

正社員として評価されている会社で勤務を続けることが出来ることは、社員にとっては大きなメリットになったのではないでしょうか。

子どもたちも親の状況をよく理解してかしらずか、当初は喧嘩する声も聞こえてきましたが、今は兄弟仲良くおりこうさんに過ごしてくれているようです。夕方のタイミングで、少し公園に連れて行くなど、子どものストレス発散なども行いつつ、業務時間は減らさず、時間をやりくりして働いてくれています。

さて、いかがでしたでしょうか?
インターネットがあれば「在宅ワーク」は簡単に出来る、と思われがちですが、やはり企業も従業員も双方に理解し合い、新しい環境づくりを行う必要があり、導入にはパワーがかかる面もあります。

今回のコラムでは、事実ベースでの在宅ワーク導入へのお話をさせて頂きましたが、来月のコラムでは、これからの在宅ワークやアフターコロナでの働き方についての考察をまとめてお伝えさせて頂きます。

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