
生産性向上において、“従業員の精神的健康(メンタルヘルス)”が非常に高い効果を発揮することはご存じでしょうか?
人手不足が深刻になり、物価高上昇・人件費増となる中、多くの企業が生産性向上を目指しています。その中でも、業務の効率化、DXやIT化、社員の適切な人員配置、アウトソーシングの活用などを取り入れる企業は多いと思います。
しかし、“従業員の精神的健康”を考慮している企業はまだ日本では少なく、今後は従業員の精神的健康への対策をする企業とそうでない企業との大きな差が開いてしまう可能性があるとされています。
“従業員の精神的健康”は、目に見えにくく、生産性としての数字として見落とされがちになるため、企業経営・人事においても優先されにくいことだと感じます。また、忍耐や根性によって、社会的に成功をしてきた方にとって、“従業員の精神的健康”を考慮することは、自身の価値観との大きな隔たりを感じ、従業員の甘やかしにもつながるように感じるではないでしょうか。 しかし、これから誰もが経験したことのないような人手不足時代に突入します。豊富な人材供給がなされていた時代では、離職を前提とした採用を行い、厳しい労働環境の中で生き残った精鋭たちだけで構成するような組織運営はもう成り立たなくなっているのです。採用の難易度がますます高まる中で、従業員のメンタルダウンからの離職、そこから新たな新規採用にかかるコストの増大、また思ったような人材が採用できず、定着しないという悪循環は経営環境を大きく悪化させます。
実際に、2024年には、人手不足倒産が過去最多を2年連続で更新し、特に従業員の退職による人手不足倒産が増加しています。
精神的不調な従業員の生産性は30~40%ダウン
精神的に不調な従業員は出勤していても、集中力が低く、通常の60~70%程度のパフォーマンスしか発揮できないとされています。また、うつ症状を抱えながら従業員が出勤して勤務している場合、企業の損失は欠勤による損失の2倍以上になるということが、米国の研究で報告されています。
また、日本生産性本部の調査によると、メンタル不調による休職・退職は企業の間接コスト増加の主因となり、企業経営全体での生産性を著しく下げる要因にもなってしまいます。
ちなみに、一人当たりの採用単価は、新卒採用の場合で約93.6万円、中途採用の場合で約103.3万円が平均的な相場と言われ、今後はよりその単価が高まっていくだろうと感じます。
つまり、従業員の精神的健康(メンタルヘルス)が保たれる職場環境では、労働生産性が高まり、離職や採用の無駄なコストが発生しない、生産的な環境と言えます。
日本企業で精神的健康が重視されにくい背景
「体調管理」は社会人の基本だと認識している人は多いと思いますが、精神的健康な状態といわれるとそれが一体どのような状態なのかと、具体的にイメージがわきにくいのではないでしょうか。
特に、日本では、精神的疾患に対する偏見が根強くあり、心の問題を口に出すのは恥ずかしい、弱い人だと思われるという考えが社会的に根強くあります。また、長時間労働・同調圧力の強い職場文化が長らく続く中、我慢が美徳となり、自己犠牲が評価さる傾向にあり、メンタルの不調があってもそれを問題だと本人も捉えにくい環境となっていたのではないかと思います。
また、メンタルヘルスについての教育や研修を受けていない管理職が多く、特に成果を上げる方の多くはメンタルが強く、組織内にメンタル不調を正しく理解し、対応できる人材も少ない傾向となっています。
日本では精神的健康が政策として本格的に取り組まれ始めたのは2000年代以降となり、欧米に比べ20~30年ほど遅いともいわれ、精神的健康についての理解が社会全体で進んでいないように感じます。
精神的健康とはどのような状態なのか
それでは、精神的健康とはどのような状態を指すのでしょうか。単に「ストレスがない」状態を指すのではなく、以下のようなポジティブな心理的・社会的な状態がバランスよく保たれていることを指します。
【感情の安定】
・不安・イライラ・落ち込みなどが継続しておらず、気持ちが落ち着いている
・自分の感情を客観的に捉え、適切に表現できる
【意欲とモチベーションの維持】
・仕事やプライベートに対して前向きな気持ちがある
・「やってみよう」「達成したい」と思えるエネルギーがある
【自己効力感(やればできるという感覚)】
・自分の力で課題を乗り越えられるという自信を持っている
【良好な対人関係】
・上司・同僚・部下と円滑なコミュニケーションができる
・孤立していない、助けを求められる環境がある
【適応力・柔軟性がある】
・変化や困難に直面しても、必要に応じて考え方や行動を調整できる
【自己肯定感がある】
・自分を価値ある存在と認識しており、過度な自己否定がない
実際に、自社の社員の中で精神的健康である、といえる社員はどの程度いるでしょうか?上記のような状態の社員が大半であれば、生産性が非常に高く、イノベーションが生まれそうなイメージが沸き起こるのではないでしょうか。
ストレスチェックを実施し、従業員のストレス状態を把握する
従業員の精神的健康、ストレス状況を把握するための“ストレスチェック制度”が、2015年12月から、従業員50人以上の企業で義務化されました。
300人以上の企業では実施率が94.8%と非常に高く、従業員50人以上のでは実施率は約90%、従業員50人未満の小規模事業所では47.2~51%と低めの水準となります。
また、その後の集団分析や職場改善の実施率は低く、ストレスチェックを実施するものの有効に活用するまでの段階に進んでいない状況がうかがえます。そのためまずは、企業の多くが従業員の精神的健康に対する有用性を理解すること。また、ストレスチェック制度の義務化への対策に終わるのではなく、実際に従業員の精神的健康を企業の重要な経営戦略の一部ととらえることが大切だと感じます。
中小企業においてはストレスチェックの義務化が2028年5月頃を予定していますが、従業員の精神的健康へ意識や対策の格差が開く前に、ストレスチェックへの対策を推奨したいと思います。
従業員10名以下の弊社でもストレスチェックを導入しました。ストレスチェックを通して、従業員の精神的健康(メンタルヘルス)を理解することで、仕事の負荷量に問題がないか、職場環境に問題がないか、ハラスメントなどがなく安心して働くことができる心理的安全な職場になっているのか、ワークライフバランスを保ちモチベーション高く働くことができる働き方になっているのか、などを理解し必要な対策や制度を検討しています。
人的資本経営が注目される背景とは
近年、人的資本経営が注目されていますが、その中でも特に重要なことの一つが、従業員の精神的健康(メンタルヘルス)と言われています。
従業員の精神的健康は人的資本の基盤となり、生産性の向上・維持に直結、エンゲージメント(仕事の熱量)を高め、人材の価値を最大限に引き出します。今後は、人的資本に投資しその価値を最大化する企業と、そうでない企業には埋めがたい差が生じると予測されています。
日本において人的資本経営が求められる背景のひとつが、深刻な人手不足と労働力人口の減少です。生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少し続け、今後もその傾向はより強まっていきます。
そのため、今までのように人材を一時的な「コスト」として扱う、豊富な労働力供給を前提とした雇用管理・労務管理から脱却し、限られた労働力の中で、人材をいかに確保し、定着させ、活躍してもらうことが企業に迫られています。また、企業価値の源泉が「モノ」から「ヒト・知的財産」へとシフトし、特にデジタル産業やイノベーション型企業では、人材こそが最大の資産だと考えられています。
ESG投資※の拡大により、投資家や市場は企業の人的資本への取り組みや情報開示を重視するようになりました。日本でも、人的資本可視化指針の策定により開示が本格化しています。
そして近年では、従業員の健康やウェルビーイングが生産性やエンゲージメントに直結するという認識が広まり、メンタルヘルス対策やストレスチェックなどを含む健康経営も、人的資本経営の重要な要素となっています。つまり、人を「資本」としてとらえ、育成・活用していく人的資本経営の考え方、つまり、「ヒトを守ること」が「企業を守ること」になり、持続的な企業成長の鍵となると考えられています。
※ESG投資とは、企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への取り組みを評価して行う投資のことです。従来の財務情報だけでなく、これらの非財務情報も考慮に入れることで、長期的な視点で企業の持続可能性やリスクを評価し、より良い投資判断を行うことを目指します。
ストレスチェックの導入や従業員のメンタルケアを検討
ムツビエージェント(株)の関連会社であるFindHRでは、国家資格と臨床経験を持った心理士などの専門職が中心となりカウンセリングを実施。従業員の定期的なメンタルケア・ストレスチェックを行い、離職防止、定着・活躍を支援することができます。
カウンセリングは従業員の精神的健康を維持し、可能性を広げる戦術です。採用難の今の時代、採用して終わりではなく、人材の価値を最大化することが組織の持続可能性を高めることへつながります。
ご興味のある方は、Find HRもしくは担当営業までご相談ください。
Find HR
https://findrework.online/lp/corporate.html