「小1の壁」という言葉を耳にする機会が増えました。
ニュースなどでは、
- 保育園のように朝早く子どもを預けられない
- 学童になかなか入れない
- 学童も人手不足で十分な対応が難しい
- 夏休みは毎日のお弁当づくりが大変
といった声を聞きます。
また、小学校入学をきっかけに、雇用形態を変えたり、転職や退職を選ぶ人もいます。
それだけ、子どもの小学校入学は、働く人の仕事にも影響する大きな節目です。
一方で、「小1の壁」と聞いても、実際に何がそんなに大変なのか、具体的には分かりにくいのではないでしょうか。
「もう小学生になるのだから、保育園の頃より少し手がかからなくなるのでは」と思う人もいるかもしれません。
しかし、小学校入学をきっかけに変わるのは、子どもを預けられる時間だけではありません。
親の働き方、家庭で必要になる対応、そして子ども自身の一日の過ごし方が、同時に大きく変わります。
これから小学1年生を迎える家庭はもちろん、子育て中の社員を雇用する企業にも、まず「小1の壁」とは具体的に何なのかを知ってほしいため、今回は、実際にどんなことが起きるのかを、一つずつご紹介していきます。
「朝、子どもをどうする?」から考える、小1の壁
「小1の壁」として、まずよく聞くことが、子どもを朝早く預けることができないという課題です。
実際、埼玉県の調査では、21.1%の保護者が、子どもの登校時間に合わせて仕事を変更したと回答しています。勤務時間の調整だけでなく、転職や勤務形態の変更、退職をした人も含まれています。
また、こども家庭庁が2024年度に実施した全国調査でも、学校がある日の朝の主な居場所について、「子どもが一人で過ごす時間があり、不安がある」と回答した保護者が3割弱にのぼっています。
小学1年生は、まだ6~7歳です。一人で戸締まりをして、時間を見ながら登校させることに、不安を感じる家庭もあるでしょう。
しかし、人や地域によって、登校時間は問題がならないケースも
実は、今回この記事を書くにあたって初めて知ったのですが、地域によって学校の開門時間が違うようなのです。
教師の働き方改革が進む関東圏では、学校の開門時間が登校時間の直前となる8時なることもあるようです。
一方、大阪府豊中市では、2024年度から市立小学校等で午前7時から児童を受け入れる見守り事業を実施しています。
同じ「朝の小1の壁」でも、地域によって学校の受け入れ時間や対応は異なることが分かります。
では、徳島ではどうか
徳島県内では、7時30分前後から開門し、児童を受け入れている小学校が多く、通常の登校時刻は、8時~8時15分までに登校するように指導されるケースが多いようです。
たとえば、7時30分に子どもを学校へ送り出し、親もそのまま出勤。8時30分始業であれば、1時間程度余裕があるので、十分に間に合う家庭も多いでしょう。
一方で、9時始業の会社に勤めていて、子どもを小学校への登校を付き添ったその足で出勤すると、今度は始業時間よりかなり早く職場に着いてしまう。そのまま業務を始めたとしても、始業前の時間は勤務時間として扱われず、早く出勤した分の賃金が支払われない、というケースもお聞きしたことがあります。
また、8時始業でも7時30分に出勤を求められ、掃除などの対応が義務付ける企業も中にはあります。その場合は、子どもを見送ることができなくなるため、小学校にあがるタイミングで離職するケースが多いということも実際に聞いたことがあります。
親の始業時刻、通勤時間、そして子どもを一人で登校させられるのか。勤務先や家庭によって、朝の登校時間の壁の高さは異なります。
このように、朝の時間だけを見ても、「小1の壁」の高さは地域や家庭、職場によって異なります。
働く人は、小1の壁が自分にとって課題となるのかを具体的に知ることが大切です。そして、企業は、出社時刻や働く環境が小学生の子どもを持つ従業員の障壁になることを理解いただくことで、柔軟な働き方を作る意義を感じていただけるのではないでしょうか。
それでは、小1の壁についてより詳しく理解を深めていきましょう。
仕事が終わっても、家庭では「もうひと仕事」
小学校入学後は、会社独自の制度がなければ、フルタイム勤務に戻る家庭も少なくありません。たとえば、9時~18時勤務の家庭なら、次のような流れになります。

あくまでもこれはうまくいった日の一例です。子どもの疲れ具合やその日の宿題によっては、夕食や宿題の確認などに、もっと時間がかかることも珍しくはありません。
また、両親がそろって対応できる日ばかりとは限りません。どちらかが残業で遅くなるなど、もう一人の親が不在の場合は、いわゆる「ワンオペ育児」になることもあります。お迎えから子が就寝するまでのスケジュール管理と食事準備などを一人で担うことになります。子どもが寝た後も親は食器の片づけや洗濯などの家事は続きます。
さらに、小学1年生の場合、「宿題や学校の準備」と一言でいっても、さまざまな対応が必要になります。
- 宿題をしたかを確認する
- 音読を聞く
- 計算カードを見る
- 丸付けをする
- 分からない問題を一緒に考える
- 翌日の時間割を確認する
- 持ち物をそろえる
- 鉛筆を削る
- 提出物を確認する
- 学校だよりや連絡アプリを見る
- 学童からの連絡を確認する
「明日、図工で箱を使います」「○日までに空き容器を持ってきてください」といった、家庭で準備しなければならないものが加わることもあります。
小学1年生が、これらをすべて一人で管理するのはまだ難しいでしょう。親も一日仕事を終えた後。子どもも一日学校や学童で過ごした後。限られた夕方から夜の時間に、夕食、お風呂、宿題、翌日の準備などが集中します。
保育園時代にはなかった、「家庭で子どもの学習や学校生活を支える役割」が新たに加わるのです。
そしてやってくる、夏休み
小1の壁は、毎日の朝夕だけではありません。
大きいのが夏休みです。
学校は休みになりますが、親の仕事は通常どおり続きます。家庭で必要になることを分けてみると、こんなものがあります。
日中の居場所
- 学童を利用する
- 学童を利用する家庭では、毎日のお弁当を準備する
夏休みの宿題
- ワークブック
- 植物の観察
- 絵日記
- 読書感想文
- 絵・工作
- 自由研究
- お手伝いカード
- 生活表
小学1年生の場合、自分だけで「いつまでに何をするか」を計画し、すべて管理して終わらせるのはなかなか難しいものです。
親が宿題全体を確認し、予定を立て、進み具合を見る必要も出てきます。
生活の管理
- 起床・就寝時間を整える
- 学童の準備をする
- 宿題をする時間を考える
そして、「やらなければならないこと」だけではありません。
せっかくの夏休みだから、楽しい経験もさせてあげたい。
旅行に行く。どこかへ遊びに行く。夏休みにしかできない体験をさせる。
そんなことも考えます。
2025年の調査では、小学1年生の保護者の69%が、夏休みの宿題について「負担が大きい」と回答しています。
仕事をしながら、日中の居場所を確保し、お弁当をつくり、宿題を管理し、生活リズムを整え、夏休みらしい経験も考える。
夏休みは、家庭に求められる役割が一気に増える時期です。
平日の学校対応も、意外と多い
小学校に入ると、学校の予定に合わせて、親が仕事を調整する機会もあります。
たとえば、
- 授業参観
- 個人懇談
- 引き渡し訓練
- 振替休日
- 短縮授業
- 給食がない日
などです。
徳島市内のある小学校では、1学期だけでも授業参観2回、個人懇談2回、振替休日1回が予定されていました。
警報による休校や学級閉鎖、急な体調不良による早退などは、突発的な対応が必要になることは、保育園時代から珍しいことではありません。
小学校ではそれに加えて、学校ならではの行事やスケジュールに合わせて、仕事を調整する場面が増えていきます。
ここまで、「親の大変さ」を見てきました。でも……
朝の出勤時間。
帰宅後の宿題や学校準備。
夏休み。
平日の学校行事。
こうして並べると、「小1の壁」が働く親にとって大きな問題であることが分かります。
ただ、ここで一度、視点を変えてみたいと思います。
小学校への入学で、一番大きく生活が変わるのは誰でしょうか。
実は、子ども本人です。
「親が何時まで預けられるか」「どう仕事と両立するか」という大人側の問題だけでなく、その時間を過ごしている子どもに何が起きているのかも考えてみる必要があります。
保育園から小学校へ。そもそも「目的」が違う
保育園と小学校は、そもそもの役割が違います。
保育園は、児童福祉法に位置付けられた児童福祉施設です。
保護者が仕事などで家庭で保育できない時間に子どもを受け入れ、子どもの生活そのものを支えます。
保育所保育指針でも、保育所は子どもにとっての「生活の場」とされています。
遊ぶ。
食べる。
休む。
眠る。
先生に甘える。
子どもの発達やその日の体調、気持ちに合わせながら、一日の生活を支えてくれます。
また保育園では、送迎の際などに、「今日はこんな遊びをしていました」「お昼ご飯をよく食べました」「少し眠そうでした」と、日々の様子を家庭に伝えてもらう機会も多くあります。
一方、小学校は、義務教育を行う教育機関です。
もちろん、小学校の先生も子どもの生活や気持ちを見ています。
ただ、保育園のように、一人ひとりの日常の様子を毎日同じ密度で家庭に共有する場所ではありません。
そして子どもには、
- 決められた時間に登校する
- チャイムに合わせて行動する
- 45分程度の授業を受ける
- 先生の話を聞き、指示に沿って行動する
- 周囲と同じタイミングで移動する
- 決められた時間に給食を食べる
- 掃除や係活動をする
- 自分の持ち物を管理する
- 友達との関係をつくる
- 初めての学習に取り組む
- 家に帰れば宿題をする
といったことが求められるようになります。
保育園から小学校への移行は、単に「預け先が変わる」ということではありません。
生活を中心に支えてもらう場から、学習と集団生活を中心とする場へと、子どもの一日そのものが大きく変わります。
小学校が楽しくて仕方がない子もいます。新しい勉強を楽しみにしている子もいるでしょう。
一方で、決められた時間に動く、先生の話を聞く、周囲と同じペースで行動する、初めての学習に取り組む、友達との関係をつくる、といった、自分のペースではなく周囲に合わせて過ごす時間が一気に増えることが、子どもによっては大きな負担になることもあります。
しかも、その生活を始めるのは、まだ6歳、7歳です。
そして、学校の後には学童がある
小学1年生は、午後2時半~3時頃に学校が終わる日も多くあります。
一方、親の仕事が終わるのは、まだ数時間先です。
そこで大きな役割を担っているのが、学童です。
学校が終わってから親の仕事が終わるまで、子どもが安全に過ごせる場所があることで、多くの共働き家庭の生活が成り立っています。
では、学童を利用する小学1年生は、どのような一日を過ごしているのでしょうか。学童に通う子どものスケジュールの一例を見てみましょう。

学校で一日集団生活をしたあと、さらに夕方まで学童という別の集団生活が続きます。
もちろん、学童が大好きな子もいます。友達とたくさん遊べることが楽しい子もいます。
一方で、「今日はもう家に帰りたい」「静かに過ごしたい」「一人になりたい」と感じる子もいます。
調査では、小学1年生で20.4%が退所。退所した家庭の退所理由として、「子どもが行きたがらなくなった」が28.8%と最も多くなっています。

また、別の調査では、「一人で過ごしたい」「静かな環境で過ごしたい」といった声も確認されています。
学童が悪いということではありません。今の共働き家庭を支える、とても重要な制度です。ただ、学校のあとにさらに集団生活が続くことが、子どもによっては負担になることもあります。
「小学生になれば手がかからなくなる」は、本当?
確かに、小学校に入ると、子ども自身でできることは増えます。
自分で着替える。
トイレに行く。
食事をする。
歩いて学校へ行く。
保育園時代と比べれば、身体的なお世話は少しずつ減っていきます。
でも、親の役割がなくなるわけではありません。
今度は、
- 学習を支える
- 生活を管理する
- 学校からの連絡を確認する
- 持ち物や提出物をフォローする
- 子どもの疲れや変化を見る
- 不安や戸惑いを受け止める
といった役割が増えていきます。
小学生になると「手がかからなくなる」のではなく、親に求められる支援の種類が変わる。
そして同時に、子ども自身も、大きな生活の変化の中にいます。
「小1の壁」は、朝早く預けられないことだけではない
「小1の壁」というと、親が仕事と子育てをどう両立するかという問題が中心に語られます。
もちろん、それは大きな問題です。
実際に、登校時間、放課後、帰宅後、夏休み、学校行事など、働く親にはさまざまな調整が必要になります。
しかし、小学校入学で変わるのは、親の生活だけではありません。
子どもも、保育園までとは違う学習と集団生活の中へ入っていきます。
「小1の壁」は、朝早く子どもを預けられないという問題だけではありません。
親の働き方や家庭で必要になる支援が変わり、同時に、子ども自身も保育園までとは大きく異なる生活へと移っていきます。
まず大切なのは、小学校入学という時期に、親と子どもにどのような変化が起きるのかを知ることではないでしょうか。
次回以降のコラムでは、さらに一歩踏み込み、「小1の壁」が働く親や子どもにどのような影響を与えているのか、その壁をどのように下げていくことができるのかを考えていきたいと思います。
子どもを育てる親が安心して働き、社会で力を発揮できること。
そして、子ども自身も安心して学校生活を送れること。
その両方を実現するために、家庭や学校だけでなく、企業にできることについても、これから一緒に考えていきたいと思います。
参考資料
埼玉県「放課後と夏休み等の過ごしかた調査・関連資料」
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/267444/88saitamaken_setsumei.pdf
厚生労働省「保育所保育指針」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1
こども家庭庁「放課後児童クラブ概要」
https://www.cfa.go.jp/policies/kosodateshien/houkago-jidou/overview
こども家庭庁「放課後児童クラブ関連調査(令和6年度調査研究)」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/9c9b15d3-ec8e-4542-8f8b-20c651d7cd0b/2c62445e/20251016_R6-1_tyousakennkyuujigyou_hp_tokukai002.pdf
内閣府男女共同参画局「共働き等世帯の推移」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r08/zentai/html/zuhyo/zuhyo00-05.html
小学館 HugKum「夏休みの宿題に関する調査」
https://hugkum.sho.jp/725105
放課後NPOアフタースクール「小学生の放課後の居場所に関する実態調査 2026」
https://socialbusiness.aishas.co.jp/socialbusinessnews_aiautomaticallygeneration/21814/
豊島区「令和6年第14回臨時会 区議会だより」
https://www.city.toshima.lg.jp/documents/46856/r6dai14kairinnzikaihoukoku2.pdf?utm_source=chatgpt.com
豊中市「午前7時からの小学校見守り事業」
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kosodate/kosodate_no1/sho1_kabe/am7_koumonkaihou.html?utm_source=chatgpt.com