何かを始めようとする時に「期待」と「不安」が入り混じり、一歩を踏み出せない。きっと多くの人がこのような経験をお持ちのことと思います。

例えば、転職を考えた時。興味がある企業を見つけ、この会社に転職したいと考えます。その一方で、この仕事は自分にできるだろうか、長期的に活躍できるだろうか、といった不安がよぎります。

その入り混じった感情は一体何モノなのか、どうすれば勇気を出して前に進んでいけるのか。本コラムではその感情の実態を解析し、感情を整理するための術を紹介しています。

(1)自己効力とその効果
何かを選択をする際に、人はまず自分の能力を見積もります。そして自信がある選択肢を選び、自信がない選択肢は選ばなくなる可能性が高くなります。この「やれる」という自分の能力に対する見積りを「自己効力」といいます。

転職でも、求人票を見て難しそう、自分にはやれないだろうと感じたら応募しないと思います。しかし、自分の能力に対する見積もりは正確なものではなく、失敗や挫折経験から過剰な苦手意識を持ってしまい、歪んだり目減りしていることがあります。誤った低い見積もりのせいで、やる前から諦めてしまい自分の可能性を狭めていることがあります。

また、実験では自己効力の高い人と低い人とでは、逆境において差が出ることが確認されました。自己効力の高い人は、難しい課題に直面しても「何とかなるだろう」と平常心を保ち、冷静に対処できるようです。しかし、自己効力が低いと、不安ばかりが先行して「自分にはできない、やっても無駄だ」と決めつけて本来の力を発揮できない傾向があります。

自己効力が高い人は積極的にチャレンジができ、途中で困難が生じても冷静に対処し、自分の可能性を広げていくことができるといえます。

(2)自己効力感を高める4つの情報源
この自己効力は、生まれ持ったものではなく、過去の経験によって形成されるものです。従って、これから未来に向けて高めていくことができます。

どのようにして自己効力感を高めることができるのでしょうか。次の4つから形成されると考えられています。

①個人的達成=やり遂げたという経験
自分の力で成し遂げたという経験が、もっとも自己効力の形成に強い影響をおよぼします。客観的な成否ということよりも、本人が自力でやり遂げたという実感を持つことが重要です。

自己効力が高い人も、はじめは小さなチャレンジから始めたはずです。そこで小さな成功経験を得て、少しハードルを上げた目標を立てて達成し・・・。それを積み重ねることによって自己効力感を高めていきます。このようなやり方を「スモール・ステップ方式」といいます。自己効力が高まると、やがて遭遇する困難や逆境に対しても、自ら乗りこえようと行動できるようになり自己効力感の正のスパイラルが回り始めます。

②代理学習:人から学ぶ
自分と似たような立場の他者(ロール・モデル)が成功するのを見聞きすることでも、自己効力感を高めることができます。兄弟や先輩など身近な人や、映画や本・雑誌でも代理学習はできます。反対に、挫折したロール・モデルに触れることで自己効力にマイナスの作用が及ぶことがあります。

③言語的説得:言葉の力
他者から繰り返し認められたり、励まされたりすると、その行動についての自己効力感が高まります。注意が必要なのは、単に褒められるだけでなく、そのことをきっかけに行動を起こすことが重要です。これは突き詰めると「①個人的達成」につながります。

反対に、出来たことを認めず、やる気をくじくような言葉を投げかけることはマイナスに作用します。

④情動的覚醒:落ち着いた心と体
自分の心や体に起きた変化を体験することを、情緒的覚醒といいます。たとえば、試験に臨んだ時緊張して冷や汗をかいたり、人前で話すときドキドキしたりといった経験があるのではないでしょうか。このように緊迫した心と体の状態を感じると人は自己効力を低く見積もる傾向があります。

リラックスした状態だと「何とかなる」と考えることができます。好ましい心と体の状態は、自己効力を高めます。

(3)もう一つのモチベーションの源は結果期待
自己効力感が「できるのか」という自分の能力への見積りであったのに対して、「できたとしたら、何を得られるか」という結果の見積りを「結果期待」といいます。結果期待も積極的な行動に大きな影響を与えています。
たとえば、ずっと憧れていた職業に就くためであれば、難しいことであっても努力しリスクを冒してでも行動すると思います。それは大きな満足感を得られると見積もっているからでしょう。

結果期待は、以下の3つに大別されます。
得られる成果に価値を感じれば積極的な行動につながりやすくなり、最も重要な要素は自己評価だといわれています。

①物理的成果(例:給与アップ、休日の増加)
②社会的成果(例:企業のステータス、周囲からの賞賛)
③自己評価成果(例:やりがい、満足感)

(4)まとめ

やれると見積もり、かつ、それにより得られる成果は自分にとって価値があるものだと見積もった時に、人は高いパフォーマンスを発揮できるといえます。

何かを始めるときは、その2つの視点で自分を振り返り、準備を整えるといいかもしれません。うまくいかないときも、自己効力と結果期待のどちらが欠けているのか自分で分析し、それに応じた対策をとるとよいでしょう。

 

参考文献
安達智子・下村英雄(2013).キャリア・コンストラクション ワークブック―不確かな時代を生き抜くためのキャリア心理学 金子書房

下村英雄(2009).キャリア教育の心理学―大人は、子どもと若者に何を伝えたいのか  東海教育研究所

安達智子・東清和編著(2003).大学生の職業意識の発達 学文社

宗方比佐子・久村恵子・高橋弘司・渡辺直登・坂爪洋美・藤本哲史(2002).キャリア発達の心理学―仕事・組織・生涯発達 川島書店